家主さん
あの人のことを本当に書けるだろうか。一緒に暮らしていたやぬさんのことを。
やぬさんは働かない彼氏だった。いつも家に居た。パチンコ屋で働く私の帰りを、家でただ待っているような彼氏だった。
私は仕事からの帰り道、必ずコンビニへ立ち寄った。
やぬさんが愛煙している煙草、キャスターマイルド5ミリを買う。お土産のキャスターマイルド5ミリを買って、家に帰る。
「やぬさん、ただいま」
「お帰りなさい、ゆこさん」
玄関を開けると、ソースの良い香りが私を包んだ。狭いキッチンで、やぬさんが何かを炒めている。
「ご飯屋さん、今日のメニューは何ですか」
「今日のメニューは焼うどんです」
やぬさんの実家は、山間の町で居酒屋を営んでいる。
幼い頃から店の手伝いをしてきたやぬさんは、料理がとても上手い。
「早く食べたいよ」
「もうすぐ完成だから、着替えておいで」
私は子供のように甘える。やぬさんは母親のように甘やかす。
やぬさんは私より20センチも背が高く、50キロも太っている。
大きな体のやぬさんに抱きつき、すぐ食べたい、いま食べたいと甘えた。